河野真也さん出演の北海道ローカルCMを考察する
2022年頃から北海道内で放送されている「ザ・ビッグ」のテレビCM。 ローカルタレントの河野真也さんが出演しており、放送地域では誰もが一度は目にしたことがあるだろう。
CMの内容はシンプルだ。 スーパーのサッカー台(袋詰め台)の前で、河野さんが妻役の女性からレシートを受け取る。 そして、その金額を見つめながら一言―― 「めっちゃ安い……」 呆然とした表情のまま、レシートを持つ手がスルリと力を失い、紙片はひらひらと宙を舞う。
おそらく、制作者が伝えたいのは「驚くほど安い」というメッセージだ。 だが、私はこのCMを何度見ても、どうしても違和感を覚える。
驚きと呆然の“ズレ”

考えてみてほしい。 「安くて驚く」ことと「呆然とする」ことは、似て非なる反応だ。
株価が大暴落したり、預金残高が想定より少なかったりしたとき、人は現実を受け入れたくなくて目をそらす。 その“呆然”には、ショックと拒絶の心理がある。
一方で、「安い」「割引」「半額」という数字を目の当たりにしたときの人間心理はまったく逆だ。 むしろ、何度も見返して「本当に?」「どれくらい得した?」と確認したくなる。 つまり、数字から目を離すのではなく、凝視する方向に働くはずだ。
だからこそ、このCMで河野さんがレシートを落としてしまう演出に、私はどうしても納得がいかないのだ。
“安さの衝撃”を表す難しさ
とはいえ、広告的な演出としては理解できる部分もある。 視覚的インパクトを重視するテレビCMでは、「数字を見つめて微笑む」よりも、「手が震えてレシートを落とす」ほうが印象に残りやすい。 短い秒数で「安さの衝撃」を伝えるために、あえて誇張したリアクションを選んだのだろう。
ただ、その誇張が“現実の買い物風景”と乖離してしまったため、視聴者は無意識に違和感を覚える。 つまり、このCMの違和感は、「リアルな心理」と「広告的演出」の境界で生まれているのだ。
ローカルCMの味わいとしての“ズレ”
実は、この“わずかなズレ”こそ、北海道ローカルCMの面白さでもある。
東京の全国区CMが洗練されすぎている今、地方では少し古風で、手づくり感のある演出が逆に印象に残る。
「うまく説明できないけど、なんか変」―― その“変さ”が、地域の記憶に残る。 「めっちゃ安い……」の一言に、北海道民の多くが首をかしげながらも、なぜか忘れられない。 それは、違和感と親しみが同居する、ローカルCMならではの魅力なのかもしれない。
まとめ
このCMを見て感じた違和感は、単なる演出の好みの問題ではない。 人が「安さ」にどう反応するのか――という日常心理の奥を映し出している。 そして同時に、地方CMが持つ“手ざわり”を再確認させてくれる。 「なぜか気になる」「何度も見たくなる」 そんな“ちょっとズレた”CMが、北海道のテレビから今日も流れている。
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